鉛直抗力の展開 (本文)

 

 

 

(1)躍動する鉛直抗力

 

「重力」とは何でしょうか。「重力」とは「重力慣性力」です。したがって、「重力」とは「慣性力」の一種です。そして「慣性力」とは、一般に「加速度伝搬の遅延」によって生じます。そしてこの「加速度伝搬の遅延」をもたらすものが「質量」です。そしてこの「質量」の本質をなすものが「慣性」です。しかしこの「慣性」だけでは慣性「力」は生じません。まずは物体の「質量」によって「遅延」させられる「加速度」が存在しなければなりません。地球上の物体にはまず「引力」が作用します。すなわち物体に「引力加速度」が与えられます。しかしこの「引力加速度」だけでは、物体はただ単に「落下」するだけです。この「落下」において「引力」は作用していますが、「重力」は作用していません。「落下」するだけの物体には「重さ」がありません。すなわち「重力」がありません。

 

 

 

しかし、地上において、物体が「静止」しているならば、この物体に対して、引力の「反対」の向きに、「同じ大きさ」の力が働いているはずです。そして「この力」が「鉛直抗力」です。しかしこれまでの考察においては、考察の便宜上その最も単純な形態で考察を行なってきました。すなわちこの「鉛直抗力」を、「下からの」鉛直抗力と「上からの」鉛直抗力とを中心に考察を進めてきました。「下からの」鉛直抗力とは、例えば物体を地面に置くような場合です。「上からの」鉛直抗力とは、例えば物体を天井から吊るすような場合です。

 

 

 

しかし、実際の「生きた」鉛直抗力は、そのような単純な場合「だけ」とは限りません。「生きた」鉛直抗力は、上下方向「だけ」ではなく、「真横」にも、「斜め上・下」にも伝搬して行きます。またこの「鉛直抗力」は、「一箇所」からだけ流入してくるとは限りません。二箇所、三箇所あるいはそれ以上の多数の箇所から浸透し、それらが合わさって一つの「鉛直抗力」を形成します。逆に、一箇所から浸透した「鉛直抗力」が、二つ、三つあるいはそれ以上に「分割」される場合もあります。

 

 

 

このようにして「鉛直抗力」は地上のあらゆる物体に浸透し、「鉛直抗力」と「重力」とを与えるところとなります。

 

かくして「鉛直抗力」は、単純考察の狭い限界を超え、「生きた」現実世界へと躍動・展開することとなります。

 

 

 

(2)鉛直抗力の側方移動

 

それでは「鉛直抗力」は「どのようにして」側方へと移動・伝搬するのでしょうか?

 

実は「鉛直抗力」は、鉛直抗力「単独」では、「側方」へと移動できません。「鉛直抗力」が「側方」へと移動する為には、「水平抗力」の助けが必要です。「鉛直抗力」は、「水平抗力」の助けを借りて、側方へと移動・展開することができます。このことを「図」で表すと、「図 鉛直抗力相関図」のようになります。  

 

ここで「側方」へと移動・展開する鉛直抗力、すなわち「側方鉛直抗力」の基本的な形態について図示しています。

 

まず鉛直抗力は、「壁」を伝って上方へと伝搬して行きます。ここで鉛直抗力は、図の「張力点」から「張力」によって図の「現象重力点」へと伝搬して行きます。しかし、この「張力」だけでは、現象重力点は壁の方へと引き寄せられてしまい、現象重力点は当初の位置を維持出来ません。

 

したがってここでは、この「張力」に打ち勝つ何らかの力が必要となります。図では「押力点」から発する「押力」がその役割を果たします。そしてこの、「張力」と「押力」とによって「鉛直抗力」が形成されます。すなわち「鉛直抗力」は、この「張力ベクトル」と「押力ベクトル」との「合力」となります。

 

これを逆に言えば、「鉛直抗力」の「分割ベクトル」が、この「張力ベクトル」」と「押力ベクトル」ということになります。

 

 

 

(3)張力・押力と鉛直抗力・水平抗力

 

このことは「図 張力・押力の成分分解」を見れば明らかです。

 

図では、張力ベクトルと押力ベクトルの「合力」が、「鉛直抗力」となっています。そしてこの「鉛直抗力」は、「引力ベクトル」に対して、「逆ベクトル」となっています。すなわち、「鉛直抗力ベクトル」は「引力ベクトル」に対して、その「向き」が「逆」であり、かつそのベクトルの「大きさ」は「同じ」となっています。

 

ここでさらに分析を進めると、「張力ベクトル」」の「水平成分」も「押力ベクトル」の「水平成分」の「逆ベクトル」となっていることが分かります。

 

すなわち、「張力ベクトルの水平成分ベクトル」は、「押力ベクトルの水平成分ベクトル」に対して、その「向き」が「逆」であり、かつその「大きさ」が同じであることが分かります。

 

この結果、「張力ベクトル」の水平成分ベクトル」と「押力ベクトル」の水平成分ベクトル」とは、「現象重力点」において互いに「打ち消し合い」ます。その結果、「現象重力点」においては、「合力」である「鉛直抗力」が残ることとなります。

 

 

 

ここでこの「張力ベクトル」及び「押力ベクトル」に含まれていた「水平成分(ベクトル)」を「水平抗力」と呼ぶこととします。

 

「図 張力・押力の成分分解」から、また次のことが分かります。「側方」に「鉛直抗力」が伝搬する為には「水平抗力」の助けが必要ですが、「水平抗力」は一つだけでは鉛直抗力を伝搬することが出来ません。「水平抗力」は「二つ」必要です。そしてその各「水平抗力」は、互いに「逆ベクトル」として、その「向き」が「逆」であり、その「大きさ」は「同じ」となっています。

 

 

 

(4)他律型水平抗力と自立型水平抗力

 

しかしその「水平抗力」は「どこ」から来るのでしょうか。

 

一つには、「鉛直抗力」と同様「水平抗力」もまた「地球自体」から来ます。 ただし「鉛直抗力」が「地面」から来るのに比し、「水平抗力」は「壁」等から来ます。

 

そしてもうーつ、水平抗力は「物体それ自体」から生み出されます。

 

「図 他律・自律型水平抗力」が、そのことを示しています。

 

「他律型水平抗力」とは、「壁」等から「水平抗力」が伝搬してくる場合です。

 

他方「自律型水平抗力」とは、「物体それ自体」によって「水平抗力」が生み出される場合です。

 

具体的には、図のとおりです。この図では、さおの両端をひもで結び、そのひもの真中でこのさおを吊るしてあります。

 

この結果、このさおの両端に、ひもの「張力」が作用します。同時に、さおの「押力」もまたさおの両端に作用します。

 

この結果、ひもの「張力」によって、「張力水平抗力」がさおの両端に作用します。同時にこれと「逆向き」に、「押力水平抗力」もまたさおの両端に作用します。

 

この結果、さおの両端において、各「水平抗力」は「打ち消し合い」、その結果、さおの両端にそれぞれの「鉛直抗力」が形成されます。そしてこの形成された「鉛直抗力」と「引力」とが、互いに力を「打ち消し合い」物体は「静止」します。

 

同時に、ここでは「鉛直抗力」自体の「合力」と「分割」とが生じています。

 

図でひもの「支点」から見れば、その「鉛直抗力」は2kg(正確には2㎏重)であり、この2kgの鉛直抗力が、左方鉛直抗力1kgと右方鉛直抗力1kgとに「分割」されています。

 

逆に、左右の各鉛直抗力から見れば、その双方の鉛直抗力「支点」において、「合成」され「合算」されて、2kgとなっています。

 

 

 

(5)側方鉛直抗力の類型

 

以上「側方」へと伝搬する「鉛直抗力」、すなわち「側方鉛直抗力」について考察を進めましたが、次にこの「側方鉛直抗力」の「類型」について分析を進めます。

 

まず第1に「図 側方鉛直抗力の類型」をご覧下さい。

 

するとこの「側方鉛直抗力」にも基本形が三種類あることが分かります。

 

まず第1に「張力」を主体として鉛直抗力が形成される「張力型鉛直抗力」があります。この「張力型鉛直抗力」においては、「押力点」の真横に重力点(あるいは現象重力点)があります。次に第2に、「押力」を主体として鉛直抗力が形成される「押力型鉛直抗力」があります。この「押力型鉛直抗力」においては、「張力点」の真横に重力点(あるいは現象重力点)があります。

 

そしてこの「押力型鉛直抗力」も「張力型鉛直抗力」と同様に張力の水平成分ベクトルと押力の水平成分ベクトルとが互いに「逆ベクトル」となっており、それぞれの「向き」は互いに「逆」で、かつその「大きさ」は「同じ」となっています。

 

そして第3に、この「張力型鉛直抗力」と「押力型鉛直抗力」とが合わさって一つの鉛直抗力を形成する「複合型鉛直抗力」があります。この場合「張力点」の真横の下側位置でかつ「押力点」の真横の上側となる位置に、「重力点」(あるいは現象重力点)があります。

 

 以上いずれの「側方鉛直抗力」においても、「重力点(あるいは現象重力点)」の位置の「高さ」は、張力点の位置の高さ以下でありかつ押力点の位置の高さ以上、となります。

 

最後に、張力と押力とが直線上に重なる場告には、鉛直抗力を形成することができず、ひもや棒で支えられていた物体は、落下することとなります。

 

 

 

(6)斜方鉛直抗力の類型

 

「側方鉛直抗力」の分析の次には、「斜方鉛直抗力」の分析へと進みます。まずは「図 斜方鉛直抗力の類型」をご覧下さい。

 

「斜方鉛直抗力」においても「側方鉛直抗力」」と同様に、「張力ベクトル」と「押力ベクトル」の合成によって「鉛直抗力」が形成されます。そしてまた張力水平成分ベクトルと押力水平成分ベクトルとは互いに「逆ベクトル」となっています。

 

ここで「側方鉛直抗力」と「斜方鉛直抗力」とが異なる点は、「重力点(あるいは現象重力点)」の位置の「高さ」が、張力点・押力点の位置の「高さ」より、「低く」なるかあるいは「高く」なるところにあります。

 

すなわち「下斜方鉛直抗力」においては「重力点」(あるいは現象重力点)の位置が「張力点」や「押力点」の「下側」の位置となります。

 

他方「上斜方鉛直抗力」においては、「重力点」(あるいは現象重力点)の位置が「張力点」や「押力点」の「上側」の位置となります。

 

 

 

(7)鉛直抗力の全面的展開

 

まずは「図 側方鉛直抗力と下方鉛直抗力」をご覧下さい。

 

図のように「鉛直抗力」は、まずは地面や壁を伝い「上方」へと伝搬してきます(上方鉛直抗力)

 

そして「側方鉛直抗力」や「斜方鉛直抗力」となって天井等を通じ「横」へと伝搬します。

 

そしてその後、天井等から「下方」へと伝搬し、「下方鉛直抗力」

 

となります。

 

 

 

以上、上方鉛直抗力、側方鉛直抗力、斜方鉛直抗力、下方鉛直抗力についての分析を終了します。

 

現実世界の「生きた」鉛直抗力は、上方鉛直抗力、側方鉛直抗力、斜方鉛直抗力、下方鉛直抗力と様々に姿を変えながら、地上のあらゆる物体に浸透し、そしてその事によって、地上のあらゆる物体に「重力」を「重さ」を与えます。かくして「鉛直抗力」は地上のあらゆる場所へと展開し躍動します。

 

 

 

(8)重力点の位置と水平抗力

 

次に、「重力点(あるいは現象重力点)の移動」が、「水平抗力」に与える影響を分析します。まずは「図 重力点の移動をご参照下さい。

 

ここでは「張力点」および「押力点」が「壁」にあるものとします。

 

そしてこの「壁」の左側に「重力点(あるいは現象重力点)」があるものとします。

 

そして次にこの「重力点(あるいは現象重力点)」が真横へと移動し、当初の「位置」からみて「2倍」の距離にあるものとします。ただしこの時、「張力点」と「押力点」の位置は変わらないものとします。

 

すると「図」から分かることは、この「重力点(あるいは現象重力点)」の移動に「比例」して、「張力水平抗力」も「押力水平抗力」もともに「2倍」となっている、ということです。

 

基準となる「壁」からの「距離」に、「水平抗力」が「比例」する、これは重要な法則であり、「モーメント」論の基礎となる法です。

 

 

 

次に、この「重力点(あるいは現象重力点)の移動」に「比例」して、「張力点」と「押力点」との間の「距離」を変えるとどうなるでしょうか。この場合には、図で分かるように「水平抗力」は変わりません。

 

 

 

(9)仮象重力点の形成

 

次に「仮象重力点」の分析へと移ります。

 

ここで「図 仮象重力点とつり合い」をご覧下さい。

 

「側方鉛直抗力」において、「水平抗力」の大きさは、基準点()と「重力点(あるいは現象重力点)」の間の「距離」に「比例」します。

 

「同様」に、「斜方鉛直抗力」においても、「水平抗力」の大きさは、基準点()と「重力点(あるいは現象重力点)」の間の「距離」に「比例」します。

 

と すれば、「水平抗力」の「大きさ」にとって重要なことは、基準点()と「重力点(あるいは現象重力点)」の間の「距離」であって、この点においては「側方鉛直抗力」と「斜方鉛直抗力」との間には何の違いも無い、ということになります。

 

したがって「一定の範囲」では、「斜方鉛直抗力」を「側方鉛直抗力」であるかのように、見做すことができます。

 

すなわち「水平抗力」との関係においては、「斜方鉛直抗力」における「重力点(あるいは現象重力点)」は「側方鉛直抗力」における「重力点(あるいは現象重力点)」と「同様」である、と「見做す」ことができます。

 

ここで「図 仮象重力点とつり合い」における下の図において、この「変形」したさおの左端に「おもり」がついていますが、この時に生じる鉛直抗力は「上斜方鉛直抗力」となります。

 

 他方その「おもり」の下側の「仮象重力点」には、実際には「重力点」は存在しません。

 

 しかしもしここに「重力点」があるならば、その「重力点」には「側方鉛直抗力」が作用します。

 

 ここで「一定の範囲」では、「斜方鉛直抗力」を「側方鉛直抗力」と「同様」と「見做す」ことができました。

 

 したがって、「一定の範囲」では、図で「おもり」の位置にある「重力点」を「仮想」の「側方鉛直抗力」の「重力点」、すなわち「仮象重力点」にあるものと「見做す」ことができます。

 

 

 

この結果、この場合の「基準」となる支点から左端の仮象重力点までの「距離」と、「基準」となる支点から右端の重力点までの「距離」が「同じ」であり、かつ、左右の物体(おもり)の質量が「同じ」であるならば、この左右の物体(おもり)は「つり合う」(均衡する)こととなります。

 

 

 

(10)鉛直抗力の合成と分割

 

また「鉛直抗力」は、様々な形に「合成」され、あるいは「分割」されます。

 

「図 鉛直抗力の合成と分割」においては、その最も単純な形態を例示してあります。

 

上の図は、2本のひもによって2kg物体が吊り下げられており、ひもの左右にそれぞれ1kgの鉛直抗力が生じている状況を表わしています。

 

下の図は、さおの両端に各1kgの物体があり、左右に「分割鉛直抗力」が生じているとともに、「支点」には、合成され、合算された2㎏鉛直抗力が生じていることを表わしています。

 

 実際の物理世界においては、鉛直抗力はしばしば無数に合成されあるいは分割され、地上のあらゆる物体に伝搬・浸透し、このことによって地上のあらゆる物体に「重力」を与え、多種多彩な世界を構築するところとなります。

 

 

 

以上により、「均衡論」分析の基礎となる「鉛直抗力」および「水平抗力」についての分析を終え、いよいよ「均衡」現象の分析へと進みます。