斜面と重力について
( 本 文 )
(1)斜面に働く力について
斜面における力を分析する際には、必ず「垂直抗力」という概念が出てきます。
この「垂直抗力」は、「斜面」に対して「垂直・上方」へと働く力です。
他方「鉛直抗力」は、「水平面」に対して「垂直・上方」へと働く力です。
したがって、「垂直抗力」と「鉛直抗力」とは別の概念ですが、ともに「重力」に関わるという点で、共通したものがあります。
ここで、斜面上に物体Aがありとします。そしてその物体Aの「質量」をmとします。
またここでの「重力加速度」をg(このgが重力加速度を表す場合には、グラムのとの混同をさけるために、このgを「斜体」で表記することとします。)とします。
なお、「重力」の「本質」論においては、このgをあえて「引力加速度」と表現したのですが、ここでは「現象重力」を扱うので、このgについては、通常通り「重力加速度」と表現しておきます。
ここで高校物理によれば、この物体Aに働く「重力は」mgである、とされます。
まずここからが、根本的におかしいのです。
どこがおかしいのでしょうか?
ここでまず物体Aに働くのは、「重力」では「なく」、「(万有)引力」なのです。
正確には、物体Aに働く「引力は」mgである、と述べるべきなのです。
すると、「引力」であろうが、「重力」であろうが、どちらでも同じではないか、と思われるかもしれません。
しかしこの区別は、たいへん重要です。
なぜならば、「現象重力」においては、「引力」と「重力」とでは、その「値」(スカラー)そのものが「違って」来るからです。
したがって、「現象重力論」においては、「引力」からの「重力」の「値」の偏移
とその要因の分析が、根本的な課題となるのです。
そのために、「現象重力」の一番単純な形態、つまり「斜面」における「重力」を、まず考察することとなるのです。
(2)高校物理について
次に高校物理において更に奇妙な点は、このmgがmgCOSθとmgSINθとに「分解」されることとされる点にあります。
もし「引力」がこのように、mgCOSθとmgSINθとに「分解」されるとするならば、どのように「奇妙」な結論となるかを次にみてみます。
まず、mgCOSθを例にとります。すると、このmgCOSθの中には「垂直成分」のみならず「水平成分」が、「含まれている」ということになります。
つまり、「水平」に作用する「引力」が「ある」ということになります。
いったいどこから、またいつの間に「水平引力」なるものが生じたのか、全く分かりません。
これは、mgSINθについても同様です。
このように、高校物理は、「計算上」は「正しい」答え(値)を導けても、「本質的」には重大な「背理」を含んでいるのです。
ということで、「斜面に働く力」について、「鉛直抗力」の理論に基づき、根本的かつ合理的に、捉えなおす必要が生じるのです。
(3)垂直抗力について
そのためにはまず、「斜面」に対して「垂直抗力」が、「何故」生じるの、という点から考えざるを得ません。
ここで考察を容易にするために、「最も単純なモデル」を想定してみます。
すると下図のようになります。
(図1)
【文書に図面をうまく貼付できないため、ご面倒ですが、参照図(斜面)をご参照ください。】
まず、「引力」が、物体Aを「落下」させようとします。
これを「分子レベル」で考えると、「斜面」の中に、物体Aの分子が、幾分割り込む形になります。すると相互の分子同士の「反発」が生じます。
ここで分子が「球状」であることを想定すると、物体Aの分子が斜面の各部分から受ける力は、その「全て」が、物体Aの「中心点」を目指します。
そして、その斜面の各部分から生じた力の「合力」が、「垂直抗力」となります。
ここで注目したいことは、「引力」は「鉛直・下方」に向かっています。
つまり、「作用」は「鉛直・下方」へと向かっています。
しかし、「斜面」から生じる「反作用」は、斜面の「角度θ」に応じて、少しずれたものとなります。
つまり、「作用と反作用の法則」が、ここでは素直には表れていないことが分かります。
以上、「引力」によって生じる「垂直抗力」の「方向」は分かりました。
しかしその「値」(スカラー)はまだ分かりません。
したがって、次には「斜面」における「垂直抗力」の「値」の大きさの分析を行うこととなります。
(4)斜面における「垂直抗力」の値について
それでは、この「垂直抗力」の「値」(スカラー)は、どのようにして定まるのでしょうか?
そのためには、まず図2をご覧ください。
(図2)
【文書に図面をうまく貼付できないため、ご面倒ですが、参照図(斜面)をご参照ください。】
この図では、鉛直抗力の「方向」だけが確定しています。
垂直抗力の「値」(スカラー)はまだ確定していません。
そこで垂直抗力のスカラーの3通りのパターンを見てみます。
まずは、垂直抗力のスカラーが、「適正」なスカラーより「大きい」場合です。
その場合は、引力と垂直抗力との「合力」は、次の図のとおりとなります。
(図3)
【文書に図面をうまく貼付できないため、ご面倒ですが、参照図(斜面)をご参照ください。】
この図のように、引力と垂直抗力との「合力」は、「斜面」から「空中」に、飛び出す方向となります。するとこの場合、斜面上の物体Aは、「空中」へと飛び出すこととなってしまいます。これはあまりに不自然かつ不合理です。
したがって、「垂直抗力」のスカラーは、「適正」なスカラーより大きくなってはなりません。
次に、垂直抗力のスカラーが、「適正」なスカラーより「小さい」場合について見てみましょう。
するとその場合は、引力と垂直抗力との「合力」は、次の図のとおりとなります。
(図4)
【文書に図面をうまく貼付できないため、ご面倒ですが、参照図(斜面)をご参照ください。】
するとこの場合には、この図のように、引力と垂直抗力との「合力」は、「斜面」にめり込む方向となります。するとこの場合、斜面上の物体Aは、「斜面」へとめり込むこととなってしまいます。これもまたあまりに不自然かつ不合理です。
したがって、「垂直抗力」のスカラーは、「適正」なスカラーよりも小さくなってもなりません。
したがって「垂直抗力」の「適正」なスカラーとは、「引力」と「鉛直抗力」との「合力」が、下の図5のように、「斜面」に「沿う」方向となる場合である、ということができます、
(図5)
【文書に図面をうまく貼付できないため、ご面倒ですが、参照図(斜面)をご参照ください。】
するとこの場合、斜面上の物体Aは、「静止」するにせよ「運動」するにせよ、「斜面上に存在」できるようになります。かくして物体Aは、空中にも」飛び出さず、斜面にめり込むこともなく、めでたく「斜面上」に「存在」できるようになりました。
このように、「垂直抗力」の「値」(スカラー)は、「引力」と「垂直抗力」との「合力」の「方向」によって、定まります。この「垂直抗力」の具体的な値は、後ほどまとめて計算することとします。
(5)引力の二重の側面について
以上、「斜面」に働く「垂直抗力」についての分析は、一応終わりました。
次には、斜面上に働く「引力」の作用について、分析を進めます。
そのためにはまず、「引力」の持つ「二重の側面」について、分析を進める必要があります。
「引力」の持つ「二重の側面」とは何か?
それは、引力が「重力」を生じる側面と、「(落下)運動」を生じる側面との、この「二つの側面」のことです。
① ここに物体A、例えば「りんご」があります。
このりんごを手に持ちます。
手に「重力」を感じます。
しかし「落下」はしていません。
② ここで手を離します。
するとリンゴは「運動」(落下)します。
その時、「重力」はもはや消失しています。
①の場合にも、②の場合にも、ともに「引力」は存在しています。
しかし、①の場合には「重力」は存在するが、「運動」(落下)は存在せず、②の場合は、「運動」(落下)は存在するが、「重量」は存在しない、という関係にあります。
あたかも、「引力」において、「重力」と「運土」(落下)とが、「二律背反」の関係にあるかのようです。
しかし実際には、「重力」と「運動」(落下)とが、ともに存在する「共存状態」があるのです。
例えば、「緩やかに落下」するエレベーターの内部における状態がそれにあたります。
③ りんごが、エレベーターの中にあります。
ここで「引力」が生じる「重量加速度」をg(ジー)とします。
そして、このエレベーターがゆっくりと「落下」、例えば0.2gで落下するとします。するとこの中のリンゴもまた0.2gの落下速度で、落下していきます。
しかし、「重力加速度」が1gなのに、0.2gの加速度で「落下」するということは、逆に言えば、「何らかの力」がこの「落下」を(ある程度)「押しとどめている」ということです。もしこの「何らかの力」が作用しないならば、このエレベーターは「1g」の加速度で「落下」していきます。
そしてこの「何らかの力」が、「鉛直抗力」に当たるのです。
つまり、1gの「引力」に対して、下から0.8gの「鉛直抗力」が作用するから、このエレベーターは、したがってその中のリンゴも、0.2gで落下するのです。
このように0.2gで落下するエレベーター内において、下から0.8gの「鉛直抗力」が作用する結果、「鉛直抗力」とは「逆向き」に、つまりは下に向かって0.8gの「重力」が発生するのです。
またこのことを逆に言えば、この「鉛直抗力」は1gの力を持たず、0.8gの力しかないということができます。なお、この「鉛直抗力」は、このエレベーターの「ブレーキ」部分から供給されるが、十分な「摩擦抵抗」が得られないため、いわばゆっくりとずり落ちていっている場合などが考えられます。
さて重力の「本質論」では、この「鉛直抗力」を1gとして考察を行ってきましたが、実際の重力現象においては、様々な要因により、この鉛直抗力が1gより小さくなる場合が生じます。これに伴い、「現象重力」もまた1gより小さくなります。
また逆に、現象重力が1gより「大きく」なる場合があります。
この場合においては、その物体Aはもはや「地上」にありません。「空中」に存在します。したがって、この場合には「鉛直抗力」は問題にはなりません。この場合においても、例えばロケットの内部において「重力」(拡張重力)とでも呼ぶべき「慣性力」が生じます。しかしこの場合にその「慣性力」を生じるその根源は、ロケットの「推進力」にあって、「鉛直抗力」によるものではありません。
(6)重力と運動との共存について
以上、「現象重力」においては、③にみられるように「重力」と「運動」との「共存状態」が存在します。
その結果、「引力の分割」という概念が成立します。 この「引力の分割」は、「概念」上のものであって、実際に「引力」が分割されるわけではありません。
「引力」にとって、「引力」は「引力」であって、「分割」されない一つのものです。しかし、「人間」にとっては、この引力を「重力作用部分」と「運動(落下)作用分」とに、「概念上」区分することが大変便利です。
これは、「お金」が「お金」であることと同じです。この「お金」が「貯蓄」に回されようと、「消費」に回されようと、お金にとっては同じことです。しかし「人間」にとっては、また「経済理論上」は、大きな違いがあります。
以上により、斜面における「引力」の作用についての基本的分析を終えます。
これらの論点を踏まえて、いよいよ「斜面」と「重力」との関係についての分析に移ります。
(7)垂直抗力とその合力とについて
以上の論点と、先の図5とから、次のような図を作成することができます。
(図6)
【文書に図面をうまく貼付できないため、ご面倒ですが、参照図(斜面)をご参照ください。】
まず。斜面と水平面とがなす角度をθとします。
すると、先の図1にあるとおり、「引力」のベクトルと「垂直抗力」のベクトルとがなす角度もまたθとなります。
この結果、この「引力」のベクトルと「垂直抗力」のベクトルとは、図6にあるとおり、「平行四辺形」を形成します。
そしてこの平行四辺形は、「上部」の三角形と「下部」の三角形という、二つの三角形に分割できます。
そしてこの上下二つの三角計の間に、「引力」と「垂直抗力」との「合力」が形成されます。図6では、緑色の→部分がそれにあたります。
ここで、物体Aの質量はmで、重力加速度はgです。
したがって、物体Aの「引力」はmgです。なお、「重力」はmgではありません。
図6を見ながら、「引力」mgと「垂直抗力」とによる「合力」を求めてみます。
すると、図6より、その「合力」のスカラーはmgSINθとなることが
明らかです。このように、この小論における計算結果と、高校物理における計算結果とは、ぴったりと一致します。しかしその「結論」に至る「過程」が全く違うのです。
同様にして、「鉛直抗力」のスカラーを求めてみます。
ここで、図6における「平行四辺形」を見てください。
その中には、上下に二つの「三角形」がありますが、その三角形同士が「合同」であることが分かます。
したがって、下の三角形の「底辺」の大きさmgは、上の三角形の「底辺」の大きさと「同じ」です。
したがって、「鉛直抗力」のスカラーは、mgCOSθとなります。
この場合もまた、計算結果自体は高校物理における計算結果と、ぴったりと一致します。
これだけ見ると、この小論と高校物理とは、「同じ」にも「見えます」。
しかし、この結論に至る「過程」と考え方の「根本」が「違う」のです。
それでは、いったいどのように違うのでしょうか?
高校物理によれば、このmgCOSθは「重力の分解」として、斜面の「下方向」に出てきます。
この結果、このmgCOSθの「成分」として「水平重力」なり「水平引力」なりの、「不可解」な概念が生じてきます。
しかしこの小論でmgCOSθは「垂直抗力」として、斜面の「上側」に出てきます。ここで「垂直抗力」は「物的力」です。したがってその「水平成分」が横に出ようが、合法則的であれば何の問題もありません。
したがって、「垂直抗力」の「水平成分」は、その「合力」の「水平成分」を成すことができます。
他方、「引力」の「(落下)運動作用部分」は、「引力」らしく、「下に」向かっています。
したがって、「引力」の「(落下)運動作用分」を、その「合力」の「下方への」「成分」と捉えることには、何ら問題がありません。
したがって、ここに生じる「合力」は、「斜面」に生じる「垂直抗力」の水平方向成分と、「引力」の「(落下)運動成分」とが、合成されたものと考えることができます。ここには、「水平重力」や「水平重力」などの、「不可解な概念」は一切生じません。
ここに「この小論の考え方」が、「合理的」かつ「本質的」だと考える所以です。
なおこの小論によれば、斜面上の物体を、「下に」「落下」させようとする運動自体は「引力」の作用によるものですが、斜面上の物体を「横に」「動かそう」とする力は、「斜面」自体から生じるものと考えることができます。
(8)斜面上の物体の重力について
次に、斜面上の物体Aの「重力」について見てみます。
物体Aの「重力」といっても、その物体Aが斜面上を滑り落ちて行く場合、つまりは(落下)「運動」をしている場合と、「静止」している場合とでは「異なり」ます。
まずは、物体Aが「斜面」上を、「抵抗なく」滑り落ちて行く場合を考えてみます。
そこで図6の「平行四辺形」の内部における「下部」の三角形を見てみてください。引力」mgが、その三角形の斜辺を成しています。
次のその三角形のそのまた内部を見てください。
するとそこにまた、互いに形の異なる三角形が、上下二つ見えます。
その形の異なる二つの三角形によって、「引力」が二つの部分に「概念上」区分されていることが分かります。
すなわち「引力の(落下)運動作用部分」と「引力の重力作用部分」とに区分されます。
そこで、この図6を見ながら、まず「引力の重力成分部分」について計算をしてみます。
すると、「引力」mgを「斜辺」とし、その角度をθとすると、その三角形の「隣辺」はmgCOSθとなります。そしてこのmgCOSθを斜辺とし、角度をθとする三角形のそのまた「隣辺」は、mgCOSθ×COSθ=mgCOSθ2 となります。
この「引力」の「mgCOSθ2」に対し、それと逆方向に「垂直抗力」の「鉛直抗力成分」が照応します。ここで、「垂直抗力」の値はmgCOSθです。そしてこのmgCOSθによって生じる「鉛直抗力成分」は、やはり図6により、mgCOSθ×COSθ=mgCOSθ2 となります。
つまり、「引力の重力作用部分」に「垂直抗力の鉛直抗力部分」とが、ベクトルにおいては「逆方向」でありながら、「スカラー」においては「完全に一致」しているのです。
そしてこの「垂直抗力の鉛直作用分(鉛直抗力成分)」によって、ここに「慣性力」としての「重力」が誕生するのです。
これにより、斜面の角度がθであり、その斜面に「摩擦抵抗」が生じないならば、物体Aは、「mg」ではなく、「mgCOSθ2」の「重力」を生じながら、斜面上を滑り落ちて行くことになります。
このように、を物体が斜面上を「滑り落ちる」場合には、そこに作用する「引力」は「mg」であっても、そこに生じる「重力」は「mgCOSθ2」となります。
以上、物体が斜面上を「滑り落ちる」場合における「重力」についての考察を、一応終了します。
次には、斜面上のその物体Aが、「ひも」などの「張力」によって引っ張られ、「静止」している場合における「重力」について、考察を進めます。
するとそこには新たに、「鉛直抗力の分割・分配」また「重力の分割・分配」という、新たな概念が生じることが分かります。
(9)張力と重力との関係について
ここでまず、図7を見ていただきたく思います。
(図7)
【文書に図面をうまく貼付できないため、ご面倒ですが、参照図(斜面)をご参照ください。】
図7では、斜面上の物体Aは、ひもで引っ張られているために、もはや「静止」し、運動を生じていません。
そして、斜面上の物体Aの位置をP点とすると、その物体Aを引っ張っている「ひも」の先は、少し遠方の「壁」のQ点に結ばれています。
こういう状態での、「鉛直抗力」と「重力」について、考察してみます。
まずP点においては「引力」mgが作用しています。また「垂直抗力」mgCOSθが作用しています。これにより、この「引力」と「垂直抗力」との「合力」mgSINθが作用しています。この「合力」に対して、これと逆方向に「張力」が作用し、この物体Aを「静止」させています。
ここでこの「張力」のベクトルは「合力」のベクトルの「反対方向」であり、そのスカラーは、合力の値と「同じ」となります。したがってこの「張力」のスカラーもまたmgSINθとなります。
そして、このP点に作用している「張力」をたどって行くとQ点に到達しますが、そこでQ点における「張力」は、図7にあるとおり、「張力の鉛直抗力作用部分」と「張力の水平方向作用部分」との、二つの成分に分けることができます。
すると、P点から「離れた」Q点に、「新たな」「鉛直抗力」が生じていることが分かります。
ここでこの「張力」のスカラーは、mgSINθです。また図7より、「張力の鉛直成分」の値は、「張力」×SINθ となります。
したがって、このQ点に生じた鉛直抗力の値は、mgSINθ×SINθ=mgSINθ2
ということになります。
したがって、ここQ点に、この鉛直抗力とは「逆方向」に「重力」(作用)mgSINθ2 が発生している、ということになります。
※なお、「重力」と「重力作用」との厳密な区分については、「張力と重力」のページの中の、「6重力と重力作用」のページ以下を、ご参照ください。このページでは、複雑さを避けるために、あえて「重力」と「重力作用」とを、明確には区別しておりません。
このように、物体Aの「引力」はP点に作用しており、Q点には「直接」作用してはいません。しかし、それにもかかわらず、「張力」の作用により、「離れた」Q点に「鉛直抗力」が生じ、それにより「重力」(作用)もまた発生しているのです。
このように、「引力」と「重力」(作用)は、互いに関連し合いながらも、互いに全く異なる性状を持っているのです。
(10)重要な結論について
次に、またP点に戻ってみましょう。
すると、P点における「斜面」の影響の下での、「鉛直抗力」のスカラーはmgCOSθ2 であり、したがってその「重力」のスカラーもまたmgCOSθ2 でした。
ここで、P点に生じている鉛直抗力を、「Vertical」(鉛直)にちなんでV(P)とし、Q点に生じている鉛直抗力をV(Q)とします。
するとV(P)=mgCOSθ2 であり、V(Q)=mgSINθ2 であるので、
Ⅴ(P)+V(Q)= mgCOSθ2 + mgSINθ2
となりますが、
COSθ2 + SINθ2 =1 なので、
結局、
Ⅴ(P)+V(Q)=mgCOSθ2+mgSINθ2
=mg(COSθ2+SINθ2)
=mg
となります。
ここで物体Sによって生じる鉛直抗力の「総量」を V(A)とすると
V(A)=V(P)+V(Q)=mg
となります。
したがって、物体Aによって生じる「重力」もまた、スカラーで表記すると
物体Aによる総重力=物体AのP点での重力+物体AのQ点での重力
=mgCOSθ2+mgSINθ2
=mg(COSθ2+SINθ2)
=mg
ということになります。
すなわち、「引力」自体はP点において作用しつつも、その「鉛直抗力」とまた「重力」(作用)は、P点とQ点とに「分割・分配」されたのです。
ここで結論です。
「引力」自体は、実体的には分割されないが、それによって生じる「鉛直抗力」及び「重力」(作用」)は「分割・分配され得る」、この点が「重要な結論」となります。
また、「張力」等によって、「引力」の作用点とは「異なる」地点においても、「鉛直抗力」と「重力」(作用)とが「生じ得る」、この点も「重要な結論」です。
さらにまた、「張力」等によって、「鉛直抗力」や「重力」の「作用」が「伝搬・伝達」する、この点も「重要な結論」となります。
以上をもって、「斜面」における「重力」についての考察を終えることとします。