遠心疑似力Ⅱ型(引力の回転型)について
(本 文)
(1)球体の「曲率」について
さて、「引力の回転」については、その概略をすでに述べたところですが、ここでは、この「引力の回転」が物体の「運動」に及ぼすその影響を分析したいと思います。
ここで地球Bの地表付近から物体Aを、「水平方向」に高速で射出するものとします。射出の方向を「水平方向」に限定するのは、思考を簡略化するためです。また同じく思考の簡略化のために、「空気の抵抗」も無いものとします。
もしこの地球に「引力」がなければ、この物体Aはそのまま宇宙へと飛び出し、再び戻っては来ません。
次に、地球の引力が「微弱」であれば、物体Aは、高速で飛翔しつつも「ゆっくり」と落下していきます。
ここでもし「地球」が「平坦」であれば、その物体Aは、いずれ地表へ衝突します。
しかし地球が「球体」であれば(実際球体である訳ですが)、どうなるでしょうか?
ここでこの「球体」である「地球」の「曲率」が問題となってきます。
ここで「曲率」というは、「球体」の「曲がり具合」を指すものとします。
すると、この「曲率」が小さければ小さいほど、その球体の表面は「平坦」となります。
逆にこの「曲率」が大きければ大きいほど、その球体の表面は平たんではなく、曲がり具合の大きいものとなります。
ここで、地球の「半径r」を考えてみます。
この「半径r」が大きければ大きいほど、地球の表面は「平坦」となります。すなわち「曲率」は「小さく」なります。
他方この「半径r」が小さいほど、地球の表面は「曲がりぐらいの大きいもの」となります。すなわち「曲率」が「大きく」なります。
つまりここでいう「曲率」は「半径rの逆数」である、ということになります
ここでもし地球がソフトボールほどの大きさであるとしたら、その「半径r」は極めて小さな」ものとなり、したがってその「曲率 1/r」は、極めて大きなものとなります。
ここで地球の地表の少し上にソフトボールを置いて、そのソフトボールのてっぺんから「水平方向」に「ロケット花火」を発射するものとします。
するとそのロケット花火は、即座にそのソフトボールの表面から飛び去ります。すなわちそのロケット花火は、そのソフトボールの表明には「落下」しません。
しかしそのロケット花火はしばらくすると、地上へとすなわち地球の表面へと「落下」してきます
【遠心疑似力Ⅱ型 図1 参照】
ここでこのロケット花火の「発射速度」をvとします。
またこの「ロケット花火」に作用する引力加速度をg(ジー)とします。
(なお考察の簡便化のため、ここではこの「g」をとりあえず「重力加速度」ではなく、「引力加速度」としておきます。「重力加速度」は、地球の「自転」による「遠心力」〔遠心疑似力Ⅰ型〕の影響を受けますが、「引力加速度」はこの地球の「自転」の影響を受けません。)
そして地球の半径を、便宜「r1」とし、ソフトボールの半径を「r2」とします。
すると、この地球にとってもソフトボールにとっても、ロケット花火の発射速度はvです。
またこの地球にとってもソフトボールにとっても、作用する引力加速度はgです。
しかしにもかかわらず、このロケット花火は「ソフトボールの表面」には「落下」せず「地球の表面」には「落下」しました。
このソフトボールは「球体」です。そして地球もまた「球体」です。
しかしにも関わらず、このロケット花火はソフトボールの上には落下せず、地球の上には落下したのです。
それでは「なぜ」この「違い」が生じたのでしょうか。一体「何が」違っているのでしょうか?
そうです。その「曲率」が違っていたのです。
ソフトボールの半径r2が地球の半径r1に比して、小さい、したがってそのソフトボールの「曲率」が、地球の「曲率」に比して、「大きい」。したがって、このロケット花火は、このソフトボールを飛び越えていったのです。
もしここで、このソフトボールの「曲率」が十分に小さければ、このロケット花火はこのソフトボールの上に、「落下」することになったでしょう。もちろんこの「曲率」の低下(すなわち「半径」の増大)に伴い、そのソフトボールの「大きさ」も大きくなることが前提ではありますが。
以上、「球体」における「運動」を考察する際には、物体Aの発射速度v、この物体Aに作用する引力加速度gだけではなく、「球体」のなす「曲率」が、したがってその逆数である「半径r」が、極めて重要な役割を果たすことが、明確となりました。
(2)初速、引力加速度、半径の関係について
このように、「球体」上の物体Aの運動を考察する際には、その球体の「半径r」が重要な役割を果たすことが明らかとなりました。さてここで「地球」もまた「球体」です。
したがって、地球の「球面」上の運動を考察する際には、地球Bから発射される物体Aの「発射速度」(初速)v及び地球自体の「引力加速度」gとともに、地球の「半径」rを、考察することが重要となってきます。
したがって、地球球面上の運動を考察する際には、まずもって、この初速vと引力加速度g及び地球の半径rの、この「三者」の「関係」を考察することが必要となってきます。
① 引力加速度g及び地球の半径rが一定で、物体Aの初速vが変化する場合。
・初速が相対的に「小さい」と、その物体Aは地球の球面上に落下します。
・初速が相対的に「大きい」と、その物体Aは地球の球面上を飛び越えます。
② 地球の半径rと物体Aの初速vが一定で、地球Bの引力加速度gが変化する場合。
・引力加速度が相対的の「小さい」と、物体Aは地球の球面上を飛び越えます。
・引力加速度が相対的に「大きい」と、物体Aは地球の球面上に落下します。
③ 物体Aの初速v及び引力加速度gが一定で、地球の半径rが変化する場合(したがって地球Bの「曲率」も変化する場合)。
・地球の半径rが相対的に「小さく」、したがって地球の「曲率」が相対的に大きい場合、物体Aは地球の球面上を飛び越えます。
・地球の半径rが相対的に「大きく」、したがって地球の「曲率」が相対的に小さい場合、物体A地球の球面上に落下します。
以上により、物体Aの初速vと、地球の引力加速度及び地球の半径とが、物体Aの「運動」に与える影響の概要が明らかとなりました。
とすると・・・・
とすると、次のようなことが推論できます。
物体Aの初速v、地球の引力加速度gそして地球の半径r、この「三者」の間が一定の「適切」な関係となれば、物体Aが地球球面上に落下もせず、また物体Aが地球球面上から飛び去りもしない状態となるのではないか?
すなわち、この物体Aは、地球の球面上に落下せず、地球球面上から飛び去りもせず、したがって、地球球面上を「飛翔し続ける」のではないか。
以上のことが強く推論されることとなります。
(3)引力の回転と引力ベクトルについて
とすれば、次に考察すべき課題は、この初速v、引力加速度g、そして地球の半径rとの三者の間に、いったい「どのような関係」が成立すれば、物体Aが地球球面上を飛翔し続けることができるのか、ということになります。
しかしこの考察に取り掛かるや否や、すぐに大きな「困難」に直面します。
すなわち「引力の回転」の問題に直面します。
先の「遠心疑似力Ⅰ型」においてのように、物体Aが「地上」に「静止」している場合や、静止していなくても比較的「低速」で運動しその「位置」を大きく変えない限りにおいては、この「引力の回転」は問題とはなりません。
しかし、物体が地球の引力を振り切りかねないほど高速となる場合においては、この「引力の回転」の問題を避けて通ることはできません。
地球は球体をなしています。
そしてこの地球が生じる「引力」は、「すべて」「地球の中心」へと向かっています。
したがって、地球の「引力」の考察においては、地球の引力の「大きさ」だけではなく、その「引力」の「向き」が非常に重要となってきます。
このことを明確にするために「引力線」(引力ベクトル)という概念を導入します。
するとこの地球は、地球自らが生じる無数の「引力線」に覆われています。
そしてこのそれぞれの「引力線」上に無数の「引力ベクトル」が存在しています。
そしてこの同一「引力線」上の各「引力ベクトル」の「大きさ」は、地球の中心からの距離の自乗に反比例します。しかし同一の「引力線」上の各「引力ベクトル」の「向き」は、全て同じです。
この結果、次のような現象が生じます。
ここで考察の簡便化のため、地球球面上付近における引力加速度gの値の大きさ(スカラー)はすべて同じ値(g=9.8m/s2)であるものとします。
また同じく簡便化のため、人が「赤道」上のある一点A点に居るものとします。
ここでその人が、赤道上を西に向かって5000キロメートル移動しB点に到着したものとします。すなわち地球の「円周の8分の1」を移動したものとします。
するとその人にとって、B点での「引力」は、A点でと同じく「下向き」であると感じられます。またその「引力」の「大きさ」も、A点での大きさとB点での大きさと、「同じ」と感じられます。このように、その人にとってはA点における「引力」もB点における「引力」も、「全く同じ」と感じられます。これは非常に素直な感覚です。しかし「実際上」は、A点での「引力」とB点での「引力」とでは、本質的な部分で全く「異なって」います。
すなわち、A点における「引力」のベクトルの「向き」と、B点における「引力」のベクトルの「向き」とが全く「異なって」います。
この人は、赤道上を西に向かって5000キロメートル移動しました。すなわち地球の円周の8分の1を移動しました。これは地球の中心を円の中心として、「45度」移動したことに相当します。これにより、当初のA地点における引力ベクトルを「引力ベクトルA」とし、B点における引力ベクトルを「引力ベクトルB」とすれば、引力ベクトルBは引力ベクトルAに比べて、「45度」角度が「異なって」います。すなわち引力ベクトルAを基準とすれば、引力ベクトルBは「45度」「回転」していることとなります。
このような「引力の回転」は、「人」が、また「物体」が「移動」するごとに生じます。
かくして、地球球面上の物体の「運動」は、「運動」が「引力の回転」を生じ、この「引力の回転」がまた物体の「運動」に影響を与え、こうして生じた「運動」がまた「引力の回転」を生じるという、絶え間ない「相互作用の連鎖」の中に組み込まれていくこととなります。
まさに考察上の重大な困難がここにあります。
(4)円の扇形分割と代表引力ベクトルについて
しかしこの「困難」も「小分け」すれば乗り越えることが可能な場合もあります。
高い山も「階段」があれば、比較的上りやすいでしょう。
したがって、この「困難」を「小分け」することとします。
まず球体である「地球」を単純な「円形」とみなします。
そのうえで、この「円形」をピザを切り分けるときのように、等分に切り分けていきます。
すると、それぞれ同じ形・同じ大きさの「扇形」が切り分けられます。
そしてこの「扇形」の円周部分(円弧部分)を観察すると、この円弧部分に存在する「引力ベクトル」の「大きさ」は同じ(g=9.8m/s2)ですが、この「引力ベクトル」の「向き」はそれぞれ地球の中心を目指しつつも、そのそれぞれが成す「角度」は少しずつ異なっています。しかし、この「扇形」をさらに細かく等分していくと、その細分化された「扇形」」の内部において、そこに存在する「引力ベクトル」の「向き」は、互いに接近していきます。
同時にまた、この「円形」は無数の同じ形の「扇形」から構成されていることとなります。とすると、もはや「円全体」を考察する必要はなくなり、この微小な「扇形」自体と、それに「隣接」する同じく微小な「扇形」との関係を、分析するだけで事足りることとなります。
まずこの微小な「扇形」のうちの任意の「扇型」を取り出します。
そしてこの任意の「扇型」を「扇形A1」とします。そしてそれに隣接する「扇形A2」とします。
さてここからが、この考察の単純ではあるが決定的な「飛躍点」となります。
「扇形A」の円弧部分には、それぞれ「向き」の「異なる」「引力ベクトル」が存在します。しかしここでこの「扇形A」の円弧部分における「引力ベクトル」の「向き」をすべて「同じ」と見なしてしまうのです。具体的には、この「扇形A」における、その円弧の「中心」に位置する「引力ベクトル」を「代表引力ベクトル」と見なし、この「扇形A」におけるすべての「引力ベクトル」の「向き」が、この「代表引力ベクトル」の「向き」と「同じ」と見なしてしますのです。
たったこれだけのことです。しかしたったこれだけのことで、解きがたい難問が、魔法のように氷解していくのです。
(5)微小扇形における物体の軌跡について
ここからは、文章だけではわかりづらいので「図形」の助けが必要です。
ただし「微小」な「扇形」は「図示」しづらいため、便宜、一定の大きさの「扇形」を図示します。
【遠心疑似力Ⅱ型 図2 参照】
まず図2のように任意の「扇形A1」の円弧の1点をP点とし、他の1点をQ点とします。また地球の中心点O点とします。
そしてこの円弧PQ線上周辺における「引力加速度」を、前述のようにg(g=9.8m/s2)とします。また先ほど想定したように、円弧PQ線上周辺の「引力ベクトル」の「向き」は「同じ」です。
ここで、P点から「水平方向」(地球の接線方向)に、物体Aを初速vで発射するものとします。するとその円弧PQ線上周辺に作用する重力gは、その物体Aの運動中、同じ「大きさ」と同じ「向き」を保ちます。
したがって、その物体Aの描く「軌跡」は「放物線」となります。
ここで物体Aの初速vが相対的に小さいと、物体AはQ点に届く前に、地球表面に墜落します。
逆に物体Aの初速vが相対的に大きいと、物体AはQ点を飛び越えてしまいます。
しかし、物体Aの初速vが「適切」な大きさであれば、物体AはQ点に到達します。
ここでQ点は、当該「扇形A1」にとっては、その「扇形A1」の終端となりますが、これに「隣接」する「扇形A2」にとっては、このQ点は運動の「始端」となります。
さて、ここで物体Aの取る「軌跡」は「放物線」です。
放物線は「左右対称」です。したがって、P点で「接線方向」の飛び立った物体AがQ点に到達したとすれば、Q点への入射も「接線方向」となるはずです。
なぜならば、「接線方向」とは、「垂線」に対して「90度」の角度を成しているため、垂線に対して90度の角度で発射した物体の軌跡が、左右対称の「放物線」を描くならば、その「入射角度」も垂線に対して90度(180度マイナス90度=90度)、すなわち「接線方向」となるからです。
次に、「扇形A1」に隣接する「扇形A2」にとって、「扇形A1」の「終端」Qは、「扇形A2」にとっての「始端」Qとなります。
ここで「扇形A1」において「放物線」を描きながらQ点に達した物体Aは、Q点を新たな出発点として、「扇形A2」内を「扇形A1」におけるのとまったく同様に、放物線を描きながら飛翔していきます。
そして「扇形A2」内を飛翔し終えた物体Aは、「扇形A2」の終端R点に達し、さらにこのR点を「始点」として次の隣接する「扇形A3」へと飛翔していきます。
かくして、最初の始端P点から発射された物体Aは、各微小「扇形」内を「放物線」を描きながら、連続して飛翔し、結果この物体Aの軌跡は全体として「円形」を描くこととなります。
このことは、最初の始端P点から発射された物体Aは、まず微小「扇型A1」内をその「代表引力ベクトル」(これをU1とします。)の影響を受けて「放物線」を描きながら飛翔し、次の微小「扇形A2」に到達するや否やその「扇形A2」における「代表引力ベクトルU2」の影響を受けて「放物線」を描きながら飛翔し、さらに次の「扇型A3」に到達するや否やそこのおける「代表引力ベクトルU3」の影響を受けて・・・、と次々と連続飛翔し、結果、物体Aの軌跡が全体として「円形」となることを示しています。
そしてこの各微小「扇形」の幅が狭くなればなるほど、この各扇形の円弧上を飛翔する物体Aの描く軌跡は、「真円」へと近づいていきます。
以上により、一定の「引力加速度」と「曲率」の下で、接線方向に一定の「初速度」で発射された物体が、「円運動」を形成するに至るのは、「引力の回転」の影響によるものであることが明らかとなりました。
したがって、次の結論が導き出されます。
すなわち物体が「円運動」を行うのは、一般的に、「引力加速度」gと球体の「曲率」(したがって、球体の「半径」)と、接線方向に発射される物体の速度とに「一定の関係」がある状態において、「引力の回転」が作用する結果である、という結論が導き出されます。
このことよりまた、物体が「円運動」を行うのは、引力とは「逆方向」に作用する「何らかの力」(いわゆる「遠心力」)によるものではなく、したがって「遠心力」の作用と見えるものは実は「遠心力」ではなく、上記の関係に基づく「遠心疑似作用」であり、あえて「力」という言葉を用いるならば「疑似力」である、ということです。ここにこの「疑似力」を「遠心疑似力Ⅱ型」と呼ぶ所以です。
(6)放物線と円との近縁関係について
ここで余談ですが、「放物線」と「円」との近縁関係について述べたいと思います。
「放物線」を「円」に近似させていくには、もともと「放物線」と「円」との間に一定の「近縁関係」がなければ、そもそも不可能なことだからです。
ここで
x2+y2=1 ・・・ ①
の円があるとします。
この円に、x=1、x=0、x=-1 で接する放物線があるとします。
するとその放物線の方程式は、
y=-x2+1 ・・・ ②
となります。
① を変形すると、
y=±√(1-x2) ・・・ ③
② を変形すると
y=1-x2 ・・・ ④
となります。
以上、外見上「放物線」と「円」とでは全く異なるように見えますが、実は深い近縁関係にあることが分かります。このことを基礎として、放物線を円に「近似」させるという「荒ワザ」が可能となるのです。
さてそれではここでさらに分析を進めたいと思います。
これまでの分析で、「引力加速度」と「曲率」(その逆数としての「半径」)及び初速(発射速度)とが「一定の関係」があるときに、「引力の回転」の影響を受けて、物体は円運動を行うことが分かりました。
それではこの「一定の関係」とは「どのような関係」なのか、それが次の課題となります。
このことも、この放物線と円との近縁関係を活用することによって、おのずと解決されてきます。
(7)「落下」とは何か
ここでまた余談ですが、そもそも「落下」とはどういう現象なのか、ということです。「落下」とは「引力」の影響によって、物体がその引力の向きに向かって運動することだ、と言えます
と考えると、「落下」とは単純な現象だとも言えます。
しかし、実際上はそう単純ではありません。
具体的に考えてみます。
ボールを地表から真上に投げてみます。
するとボールはしばらく「上昇」せてから、一瞬「静止」し、その後すぐに「落下」してきます。
しかし実際の「落下」は、ボールを真上に投げた瞬間から始まっているのです。
これを方程式で表してみます。
すると物体の高さhは
h=vt-1÷2×gt2 ・・・①
で表されます。
この①式の -1÷2×gt2 に注目して下さい。
この式にあるとおり、ボールは真上に投げられた瞬間から、「絶えず落下」しているのです。
しかしこの「落下」は、人間の目ではなかなか認識できません。
ですから、ボールが頂点に達し、物体の「運動方向」が「下向き」になった時に、すなわち「運動」の「質」が変わった時に、人間は「落下」を感覚で感じるのです。
(8)量から質への転化について
このように、「落下」と「上昇」とは、必ずしも互いに排斥し合うものではありません。真上に投げたボールが引力の向きと反対の方向に運動し「上昇」しているその「最中」において、すでに物体の「落下」は進行しているのです。
この「落下」により、物体の上昇速度が「量的」に減少していく中で、上昇速度と下降速度とが一致する時点において一旦「静止」し、次には地表へと下降していくのです。
このように現象一般が人の目に「見える」時、すなわち「質的変化」を人が認識する時、実はその以前から「量的変化」が進行しているのです。
かくして「量的変化」が「質的変化」につながるということ、すなわち「量から質への転化」が生じるのです
同様な現象は「化学」の分野でも生じます。
例えば「中和滴定」です。
ある透明な溶液Aに、別の溶液Bを一滴ずつ垂らして行きます。すると暫くの間は何の変化もありません。しかしある一滴を垂らした瞬間、一瞬にして溶液の色が変化します。A液中におけるB液の「量」の変化が、A液における「質」を変化させた一瞬です。
「経済」においても同様な現象が生じます。
「経済恐慌」という「質的変化」が生じ、「恐慌」現象が人の目に見えるはるか前から、何らかの「量的変化」が、例えば「生産力」と「消費」との分離が進行しているのではないか、ということをうかがわせます。
(9)円運動における「落下」と「上昇」について
さて、再び「落下」と「上昇」の問題に戻ります。
以上、「落下」と「上昇」という一見相反する現象が、実は同時に存在し得ることが分かりました。
そしてこの「落下」と「上昇」という関係は、「円運動」においてはさらにドラスティックです。すなわち、「円運動」においては、「落下」が「上昇」であり、「上昇」が「落下」である、という関係が生じます。
このことは一見奇妙に見えますが、よく考えると実に当たり前のことであることが分かります。
具体的には、先の【遠心疑似力Ⅱ型 図2】を見てください。
P点から物体が「上昇」し、頂点に達し、さらにQ点に向かって「落下」して行きます。
たしかに、「扇形A1」から見れば、頂点からQ点への運動は「落下」です。しかし隣接する「扇形A2」から見ればどうでしょうか。
「扇形A2」から見れば、「扇形A1」の頂点からQ点への運動は、「落下」では無く「上昇」運動なのです。この「上昇」運動によって、物体AはQ点を通過し、さらに「扇形A2」の頂点へと運動して行くのです。
以下、この運動がさらに隣接する「扇形A3」・・・へと、連続して行きます。
先ほど述べたように、この運動の「連続」が、全体として「円運動」を形成していくのです。
(10)運動における「対立物の統一」について
以上、円運動において、物体は絶えず「落下」するだけでなく、物体は絶えず「上昇」しています。
「落下」と「上昇」という、いわば相対立する概念が「円運動」という一つの運動に「統合」(統一)されること、ここに「円運動」の本質があります。
落下=上昇であるがゆえに、円運動を行う物体は、エネルギーの出し入れを必要とせず、半永久的に円運動を続けることができるのです。
これは「経済」における「売買」にも似ています。
Aの人にとって「売り」であることが、Bの人にとっては「買い」であり、この「売り」と「買い」との相対立する行為が一体となって、いわば「統一」して、一つの「売買」という法律行為を形成します。
そしてこの売買の連鎖によって、一方では「商品」が、他方では「貨幣」がそれぞれ「運動」(流通)して行きます。
このように、一般に運動(あるいは変化)において、その内部には相対立する概念が統一し一体と成り、いわば「対立物が統一」し、これが運動(変化)の基礎となっているのではないか、ということをうかがわせます。
(11)円運動における「一定の関係」について
本題に戻ります。
【遠心疑似力Ⅱ型 図3】をご参照ください。
これまでの分析で、初速、引力加速度、半径が「一定の関係」にある時、引力の回転の影響を受けて、物体が「円運動」をすることが分かりました。
それでは次に問題となるのは、この「一定の関係」が「どんな関係」であるのか、ということですが、ここではこのことを分析・解明して行きます。
図3について、任意の微小扇形においてP点から接線方向に射出された物体Aが、「適切」な初速であれば、正確にQ点に到達するはずです。そしてQ点に到達した物体Aは、次にQ点からR点へと飛翔するはずです。
ここで、PQ間において物体Aのなす軌跡は「放物線」です。
したがって、物体Aの軌跡PQは「左右対称」です。
また、軌跡PQの「頂点」は、軌跡PQのちょうど「真ん中」にある、ということになります。
ここで、この軌跡pQ(放物線)の「頂点」をSとします。
すると、P点から初速vで発射された物体Aは、この頂点Sを目指しつつ、「等速運動」をしようとします。
しかし、地球の引力の影響により、同時に引力加速度gで(量的に)「落下」して行きます。
そして、この頂点Sに到達したところで、物体Aは(質的に)転換点へと至り、(質的にも)「落下」していきます(ただしこの「落下」は隣接する扇形から見れば「上昇」です)。
ここで頂点S点の「真下」の地表の点をT点とします。
また物体Aが地球の引力の影響を受けずに「等速運動」のみをしたと仮定した場合に、物体Aが速度vで頂点Sに達するまでの「時間」をtとします。
また物体Aが、頂点Sから地球の中心点O点に向かって、引力のみによって単純落下する場合の「落下距離」をdとします。
すると、この初速vが小さすぎると、相対的に落下距離dが大きくなり、物体AはT点に到達する前に地表に落下してしまいます。
しかしここで引力加速度gが「弱ければ」、物体Aはゆっくりと上昇し、またゆっくりと落下し、Q点に到達することができます。
この場合における放物線の軌道は、円軌道より「高く」なります。
逆に初速vが大きすぎると、相対的に落下距離dが小さくなり、物体AはT点を飛び越してしまいます。
この場合、引力加速度gが「強ければ」、物体Aは速く上昇し、また速く落下し、やはりQ点へと到達することができます。
この場合における放物線の軌道は、円軌道より「低く」なります。
しかし、初速vが適切であり、かつ引力加速度gが適切であれば、この放物線はP点からQ点へと到達する「途中」、この放物線の「頂点S点」において、「地表T点」と「接する」こととなります。
この場合、ST間の距離が取りも直さず、物体Aの「落下距離d」となります。
したがって、線分ST=dとすることができます。
そしてこの場合、この「放物線」と「円」とは、「P点、Q点、S点=T点」の「三点」で接し、これにより、放物線の軌道と円の軌道とは、「ほぼ一致する」ところとなります。
このことにより、ST=dが成立するならば、逆にこの放物線の軌道が、ほぼ円の軌道と「同じ」と見なすことができます。すなわちこの場合には、放物線が円に「近似」するものとみなすことができます。
以上のことを踏まえて、図3を見ると、「ピタゴラスの定理」により、次のことが分かります。
すなわち、
(PO)2+(PS)2=(TO+ST)2・・・①
ここで、
PO=TO=r ・・・②
PS=vt ・・・③
ST=d=1÷2×gt2 ・・・④
この②、③、④を①に代入すると
r2+(vt)2=(r+d)2
=(r+1÷2×gt2)2
=r2+grt2+1÷4×g2t4 ・・・⑤
この⑤式よりr2を消去し、両辺をt2で割ると
v2=gr+1÷4×g2t2 ・・・⑥
ここでt→0へ収れんすると、
1÷4×g2t2 →0 へ収れんします。
以上により⑥式は、次の⑦式へと収れんします。
v2=gr ・・・⑦
以上により、引力の回転の影響のもとで、「一定の関係」すなわち「v2=gr」という関係が成立するならば、その物体は「円運動」をすることが明確となりました。
以上、遠心疑似力における「本質論」を終了し、次にはこの「v2=gr」を活用して、その「応用編」に移り、海洋の神秘である「潮の満ち干」すなわち「潮汐現象」(潮汐作用)の分析・解明へと進みます。